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王手3

「おつかれさまです」
私は挨拶したついでに、少し前から気になっていた事を聞いてみる事にした。彼の会社つまりうちがお世話になっている給油業者の建物は、実は私の通勤する道ぞいに建っている。その建物の隣で一ヶ月ほど前から工事がはじまった。地面を少し掘り返してコンクリートの基礎の作られ、あれよあれよのうちに今や立派な足場が組まれ、その中では着々と工事が進行している様子なのだ。
「○○さんのお隣、工事してはるの、あれ会社拡張してはるんですか?」
◯○さんというのは給油業者の会社名だ。メガネの彼は苦笑いをしながら顔の前で手の平を左右に動かし「違う違う」というそぶりを見せた。苦笑いでありながらもどこか「良く聞いてくれた」というような感じがあった
「いや、あれねぇ…」
と言ってちょっと溜める。ちょっとだけ声のトーンを落として彼は続けた。
「消防署できるんですよ」
私は声を出して笑った。
「それ、完全にマークされてるんとちゃいますのん?」
彼らが扱っているのは軽油、ガソリン、灯油などの危険物で、それらを監督するは言わずもがな消防署になる。それが隣に越してくるというのだ。
「『マーク』というか、もう「王手」という感じじゃないですかね」
メガネの彼は人懐っこい笑顔を浮かべてそういった。
私らも毎日人の口に入る物を扱っている。そう言う意味では「危険物」で、であるから保健所が監督するわけだ。つまりウチの会社の隣に保健所が引っ越してくるような物で、これは本当に将棋の盤面で王将の鼻先に金が打たれたような感じがする。「王手」とはうまく言ったものだ、と私は感心した。
うちも、彼の会社も悪い事しているわけではないから、ドロボウの家の隣に派出所ができるのとは訳が違う。違うとは言え、あんまり気分が清々しいものでもないから、こういう冗談を言いたくなる気持ちはとてもよくわかった。


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