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損得

その酒屋の中に入るのは久々の事だった。住んでいる団地を降りたすぐの所にある小さな酒屋。ほとんど毎日買いにいくのだけれど、ほとんどの場合が自動販売機でようを済ませてしまうのだった。今日はたまたま財布の中に小銭も千円札も無く、一万円札だけがあった。稽古終わりで返って来た時には酒屋はすっかり閉まっているのであきらめるか、もっと下のコンビニまで買いにいかねばならない。今日帰宅したのはまだ酒屋の開いている時刻だったのだ。店の中に入るとだあれも居なかった。店の奥の方からはテレビの音が聞こえて、誰かが居るように思うのだけれど、一向に誰も出てくる様子は無い。
「すいませーん」
と少し大きめの声で店の置くに呼びかけると、おじいさんが出てきてくれた。私は発泡酒の六缶セットと一万円札をレジの台の上に置いた。おじいさんが返してくれたおつりからすると、私は、下のスーパーで買うよりも100円以上高い値段でその発泡酒を買ったようだ。仕方が無い。と私は思った。おじいさんはゆっくりとした動きでビニール袋を一枚広げて、その中に発泡酒を入れた。それからおじいさんは腰を屈めて台の下の床に置いてあった段ボール箱から「見本缶」と印刷されている、別の銘柄の発泡酒を一缶、無言でビニール袋に入れてくれた。
「おおきに」
といって私は店を出た。

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