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夜の雨

私はベランダに出るガラスのサッシを開けた。風呂上がりの体に気持ちのよい冷気と、しとしとという雨の音が部屋の中に入って来た。この雨は明日の朝までは残るようだ。本格的な梅雨を前に私の気分はもうすっかりめげている。私は梅雨が嫌いだ。きっと昔は私もそこまで梅雨を嫌いではなかったとのだ思う。かつて雨の日は雨の日なりに楽しいことがあった。静かな気持ちで読書をしたり、お気に入りの傘と雨靴で近所をぶらついたり。なにより植木屋の仕事をしていた時には文字通り休暇が降って湧いた。実を言えば今だって雨、すなわち空の高い所からいくつも水の雫が落ちてくるこの現象をそれほど嫌いなわけではないのだ。梅雨とて、朝も夕方もなくなったようなあの時間の流れ方(それはアジサイの色とも共通する「淡さ」だ)は嫌いじゃない。私が憎んでいるのは「雨の中をバイクで移動すること」だ。高価なカッパのおかげで体が濡れることは無くなったが、そのカッパを着たり脱いだりがやっかいだし、他にも鞄をビニール袋で包んだり、長靴を引っ張り出して来たり…。とにかく面倒くさいのだ。オーバーではなく晴れた日の倍以上、あるいはもっと時間がかかってしまう。それに何と言っても雨の日のバイクの運転は本当に危険だ。何もかもが不確かなこの世の中にあって数少ない確かなことの一つだ。「雨の日のバイクの運転はとてもとても危険」乗らない人にはわからないことだが、運転の難易度がレベル二つほど上がる。視界が悪くなる上に走行の正確性が下がるのだから。どこかの国のどこかの町に「雨の日はバイクの運転を禁止する」という法令があったとしても私は全く驚かない。やっとのこと目的地についてからも、ヘルメットをタオルで拭いて、カッパはハンガーに干して、長靴は置き場所に困るし、鞄をくるんでいたビニール袋もどうにかしなくてはならない。明日の朝の煩雑さを思うと、どうしても今夜のこのしっとりとした雨を慈しむ気にはなれないのだった。

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