「俺」

我ながらどういう風の吹き回しか無性にラーメンが食べたくなって入った店の表の壁に、看板代わりにデカデカと引き延ばされた「丼に入った脂っこそうなラーメンの写真」の横に、同じくデカデカと毛筆で書きなぐったようなフォントで「男は黙って肉増し!!」と書いてあったもんだから、俺はカウンターに座って黙っていた。
水を持ってきたアルバイト君が「お決まりですか?」と聞いてきたので、彼の目をまっすぐじっと見返して黙っていた。要領を得ない様子で彼が去ってから3分ほどして、カウンター越しにさっきとは別の店員が「何にしましょう?」と聞いてきたので、俺は黙って奴の目をじっと見つめた。
「何にしましょう?」
もう一度奴が聞いてきてから、実際には何秒間かわからないけれど、俺は何往復も自問自答を繰り返した結果「ラーメン」と、奴の目をじっと見つめたまま言った。祈るような気持ちだった。
カウンターの向こうのタオルを頭に巻いた店員は陽気とも不機嫌ともつかぬ声で
「ラーメン並、トッピング無しで良かったですかぁ?」
と俺に聞いたのだった。
知らぬが仏の店員に、「肉増しで」と答えた後、俺は分厚い敗北感に包まれていた。


明日はトランク企画だ。

http://trunkkikaku.jimdo.com/next-live/

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